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廣野由美子『シンデレラはどこへ行ったのか  少女小説と「ジェイン・エア」』のご紹介

英国小説研究同人の廣野由美子先生の本が出ました。

『シンデレラはどこへ行ったのか  少女小説と「ジェイン・エア」岩波新書、2023年。


シンデレラはどこへ行ったのか

出版社のHP↓





出版社による紹介文です↓

『赤毛のアン』『若草物語』『あしながおじさん』 …… 。
古典的名作『ジェイン・エア』から始まる脱シンデレラの物語を読み解く。

『赤毛のアン』『若草物語』『リンバロストの乙女』『あしながおじさん』などの少女小説に描かれる、強く生きる女性主人公の物語はいつ、どのように生まれ、広まっていったのか。英国の古典的名作『ジェイン・エア』が与えた衝撃と、そこから始まる脱シンデレラ物語の作品群を読み解き、現代における物語の意味を問う。


目次↓

序 『ジェイン・エア』から少女小説へ
   ――「シンデレラ・コンプレックス」と「ジェイン・エア・シンドローム」

第1章 脱シンデレラ物語の原型
   ――シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』
 1 女性像の変転――『ジェイン・エア』以前の文学を見る
 2 不遇な幼少時代を送るヒロインの登場
 3 学校生活とキャリア
 4 男性パートナーとの対等な関係

第2章 アメリカへ渡った「ジェイン・エア」の娘たち
   ――『若草物語』『リンバロストの乙女』『あしながおじさん』
 1 『ジェイン・エア』の物語とアメリカの女性作家たち
 2 女らしさへの問い――ルイーザ・メイ・オルコット『若草物語』
 3 逆境を乗り越える――ジーン・ストラットン・ポーター『リンバロストの乙女』
 4 自立への道――ジーン・ウェブスター『あしながおじさん』

第3章 カナダで誕生した不滅の少女小説
   ――ルーシー・モード・モンゴメリ『赤毛のアン』
 1 自分らしさと強さの肯定――『ジェイン・エア』からの飛躍
 2 自力で居場所を獲得する物語
 3 能力でキャリアを開く
 4 敵対から友愛へ

第4章 イギリスでの変転とその後の「ジェイン・エア」
   ――ルーマー・ゴッデン『木曜日の子どもたち』
 1 「シンデレラ」のゆくえ――『ジェイン・エア』からの変容
 2 母としての「ジェイン・エア」
 3 シンデレラ少年の物語
 4 「意地悪な姉」の再生の物語

終 章 変わりゆく物語
   ――「ジェイン・エア・シンドローム」のゆくえ
 1 変貌する「シンデレラ物語」――ディズニー映画と現代
 2 変わる読者の意識と時代――新しい物語への展望

 あとがき
 参考文献



「シンデレラ・コンプレックス」はわかるけど
「ジェイン・エア・シンドローム」ってなんだろう?

児童文学やフェミニズムに興味がある人にもよさそう

ぜひ読んでみてくださいね101.png

by 川崎



# by eikokushosetsu | 2023-09-21 20:52 | 英国小説研究同人

箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)



こんにちは

梅雨の晴れ間を利用して
「箱根ドールハウス美術館」に行ってきました


箱根ドールハウス美術館↓


その名のとおり、ドールハウスを展示した
国内でも貴重な美術館


書いてる時に行きたかったけど

コロナもあったし
箱根は「横浜人形の家」より遠いしで
館長の新美康明さんの、こちらの本を読むだけになっていた

新樹社、2012年↓





私が特に見たかったのは
「ハスケルハウス」と、「トーマス・ハーディの家」

ハスケルハウスは、イギリス・バレエ史の父と呼ばれる
アーノルド・ハスケル(Arnold Haskell, 1903-80)が
持ってたもの

18世紀後半に制作され、1920年代に
母ハスケル夫人が、自ら装飾をほどこします

それをハスケルが、ヴィヴィアン・グリーン
(Vivien Green, 1904-2003)に供与した

ヴィヴィアンは、イギリス有数のドールハウスのコレクターで
ドールハウスの本も何冊か出している
夫は小説家グレアム・グリーン


ヴィヴィアンのコレクションは、自宅に併設した
ロトゥンダ・ミュージアムに展示されていたけど
90年代末に、オークションにかけられました

そこで館長の新美さんがハスケルハウスを入手して
日本に持ち帰り、今は箱根に落ち着いている

ドールハウスは小さいから、本物の家と違って
数世紀の間に、いろいろな場所に移動するんだなあ、と思った


全体はこんな感じ↓
箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15335319.jpg


ちょっと光ってますが、館長さんの本に
プロが撮ったきれいな写真と、詳しい解説がついているので
そちらをぜひご覧ください


私が一番ときめいたのは
このドールハウスの中に、さらにドールハウスがあったこと!

上の部屋の右奥にあります↓
箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15355406.jpg




さらにアップ↓
絵の下にあるの、わかりますか?
箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15364520.jpg



さて、もう一つの見ものは
われらがトマス・ハーディの生家

1997年に、新美館長が、ドールハウス作家の
グラハム・ジョン・ウッズ(Graham John Wood)さんと出会い

もともと自宅そばにあるハーディの生家を
作りたいと思っていたウッズさんに
制作を依頼したのだそう


ハーディの生家は、ナショナル・トラストが管理しているので

ミニチュア制作の正式な許可を取った上で
ウッズさんが内部写真を撮影し

ほぼ本物そっくりに、家具や内装を復元しました


家具や花は、それぞれその道の専門家に依頼したそうです
ミニチュア制作は、高い技術を要するので
細分化・専門化されてるんですね

こんな感じです↓
箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15392086.jpg


箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15380714.jpg



箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15374810.jpg





箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15382559.jpg


他にもイギリス文学関連では
1996年制作のディケンズ・ハウスもあります

『大いなる遺産』の場面を、ミニチュアにしたもの
脱獄囚マグウィッチが、墓場で眠っているところを再現してます

ちょっと見にくいですが、棺の右側にいる
グレーの服を着ているのがマグウィッチ↓

箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15403119.jpg




それから、ウッズさん作の
ビアトリクス・ポターのヒルトップハウスもありました↓
箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_16151168.jpg




美術館で実際にドールハウスを見ることの利点は
サイズを体感できることだと思う

写真で見ると、サイズの数字が書いてあっても
大きさが体感できないけど

実物を見ると、家本体の大きさに驚きながら
食器など小物の小ささに驚くなど
サイズに関する複数のwonderを、同時に体験できるのが
とても魅力的です

音楽でいうと、フーガみたいな感じ
複数の声部が、それぞれ横に流れていくのが聞こえながら
縦の和音も、同時に聞こえるという
実際に聞かないと体感できない感覚


ぜひ行ってみてくださいね101.png


箱根ドールハウス美術館は
お庭もきれいにしていて
Jamesさんという方に案内してもらいました

「ノームの森」にいるノームのアラスカ↓
箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15415896.jpg


アラスカ州に、ノームという地名があるということで
誰かが冗談半分にアラスカという名前を提案したら
採用されたそうです

独りでちょっとさびしそう?
箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15414566.jpg





それから、この小さな池の、上方の
木にひっついている白っぽいものは、カエルの卵↓
箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15425989.jpg




時がくると、孵化したオタマジャクシたちが
下の池に落ちるんだそうです

すごいドラマですね
生まれた瞬間に、一世一代のダイブをするなんて

アップ写真↓

箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15433804.jpg



木についたカエルの卵を見たのは初めて
カエルは水中にしか、産卵しないと思ってた


「恩寵箱根公園」も散歩しました
ここは、正確には、芦ノ湖に突き出た半島だけど
島の雰囲気があって、何となく楽しい
ハックルベリー・フィンごっこするのに、よさそうなサイズ感

「湖畔展望館」の二階から見る芦ノ湖↓
箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15444605.jpg

箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15451045.jpg


杉林↓
箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15461014.jpg





野生のベリー↓
箱根ドールハウス美術館(ハーディ、ディケンズ、ポター、ヴィヴィアン・グリーン)_d0370785_15462202.jpg


と、ここまで書いたところで
ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館が
ドールハウスの飾りつけをするビデオをアップしたので
ご紹介します↓



登場する「ニュルンベルクハウス」は
ヴィクトリア&アルバート子供博物館が所蔵する
最も古いドールハウスで、1673年に作られました

壁に飾るユニコーンの頭部は、角がなくなっていたけど
今回再現したのですね

ユニコーンを飾ることから、薬剤師の家だとわかるそうです


ヴィクトリア&アルバート子供博物館にあるドールハウスについては
この本に写真や解説があります

安原実津訳、パイ インターナショナル、二〇一七年↓





箱根は、アートも自然も楽しめました

午後も20度くらいで涼しかったし
空気もきれいで、芦ノ湖の水も透明でした

とてもよいところでした
だから保養地になるんだなあ、と納得です101.png


by 川崎


# by eikokushosetsu | 2023-06-23 17:11 | 小説と芸術

惣谷美智子・新野緑 編著『オースティンとエリオット:〈深遠なる関係〉の謎を探る』が出ました

英国小説研究同人の新野緑先生と、廣野由美子先生が執筆した本が出ました


惣谷美智子・新野緑 編著
『オースティンとエリオット:〈深遠なる関係〉の謎を探る』
春風社、2023年







出版社HP↓









梗概と目次です↓

【梗概】
 本書は、2021年12月11日にオンラインで開催された日本オースティン協会と日本ジョージ・エリオット協会の合同大会でのシンポジウム「『深遠なる重要性を帯びた影響』——その探求の魅惑」(司会:惣谷美智子、講師:川津雅江、土井良子、永井容子、新野緑)と講演「ジョージ・エリオットはジェイン・オースティンから何を受け継いだのか?——『ミドルマーチ』における〈分別〉と〈多感〉」(廣野由美子)を加筆修正し、再構築したものである。
 タイトルにある〈深遠なる関係〉は、F. R. リーヴィスの著『偉大な伝統:ジョージ・エリオット、ヘンリ・ジェイムズ、ジョセフ・コンラッド』の中の言葉「深遠なる重要性を帯びた影響」からきている。彼は、オースティンの影響が後に続く作家たちに受け継がれていくさまをそのように表現したのだが、興味深いのは、リーヴィス自身がオースティンとエリオットの影響関係を強く主張しながらも、示唆するに留めていることである。リーヴィスによれば「オースティンについてはかなりの長さをもった研究を要する」のだが、彼のその「研究」はついぞ現れることはない。こうした空白が帯びる謎は否応なく読者を多義的な解釈へと向かわせるだろう。本書においても謎は、執筆者の専門、興味、関心に引き取られ、議論は縦横に拡がる。


【目次】
はしがき
第1章「女性の教育と生活の資——オースティンとエリオットにおけるウルストンクラフトの遺産——」(川津雅江)
第2章「少女は小説家の母である——初期作品からみるジェイン・オースティンとジョージ・エリオット——」(土井良子)
第3章「ジェイン・オースティンとジョージ・エリオット——匿名性と作品を取り巻く『視点』——」(永井容子)
第4章「〈見誤り〉の悲劇/喜劇——『エマ』と『ミドルマーチ』——」(新野緑)
第5章「『説得』と『ミドルマーチ』——『はじまり』と『終わり』の狭間で——」(惣谷美智子)
第6章「エリオットはオースティンから何を受け継いだのか?——『ミドルマーチ』における〈分別〉と〈多感〉——」(廣野由美子)
あとがき
執筆者紹介
索引



ぜひお読みくださいね101.png

by 川崎


# by eikokushosetsu | 2023-06-02 09:27 | 英国小説研究同人

『英国小説研究』第29冊が出ました!

『英国小説研究』同人編『英国小説研究』第29冊が刊行されました!

表紙は、明るいペールイエローで
端末によって、色うつりは違いますが、これ↓をもっと明るくした感じ
とてもきれいな本になりました




英宝社HPの紹介です↓



目次↓


新野 緑
ジャーナリストから小説家へ
─『ボズのスケッチ』の構成をめぐって─


永富 友海
エスター・サマーソンの感情教育


金谷 益道
英国小説批評における描写批判
―物語性・イデア・迫真性


市川 千恵子
世紀末のシスターフッドとMona Maclean, Medical Student


原 英一
カズオ・イシグロと沈黙の文学
―省筆あるいは偸聞の語り


向井 秀忠
Kazuo Ishiguro が描く現代の〈悪〉
The Remains of the Dayにおける〈凡庸さ〉の帰結



この第29冊から、ページの余白を縮めて
その分、字を大きくしてもらいました

目に優しくなりましたので
ぜひたくさんお読みくだいね101.png




あらためて自己紹介すると
『英国小説研究』は、英国小説に関する論文を載せた同人誌です

書き手は、イギリス文学を専門とする研究者で
出版社は、東京の千代田区にある英宝社です


第1冊は1954年に刊行しました
今は、隔年で出してます


日本に、イギリス小説の同人誌がいくつあって
一番古いのがどれかは知らないけど

今も続いてる同人誌の中では、かなり古参のはず
ひょっとして、一番とか???

(リサーチャーなのに、リサーチ不足ですみません、汗
でも、どうやって調べるんでしょうね?
国会図書館の資料種別に「同人誌」はないし)



現在のメンバーは41人です↓

鮎澤 乗光
伊勢 芳夫
井石 哲也
市川 千恵子
上原 早苗
鵜飼 信光
内田 正子
海老根 宏
大石 和欣
大田 美和

大西 寿明
御輿 哲也
片山 亜紀
金谷 益道
金子 幸男
川崎 明子
河崎 良二
久野 陽一
坂本 武
鈴木 美津子

仙葉 豊
武田 将明
武田 美保子
玉井 暲
丹治 竜郎
長島 佐恵子
永富 友海
中和 彩子
新妻 昭彦
新野 緑

西山 徹
服部 典之
原  英一
原田 範行
廣野 由美子
松井 優子
馬渕 恵里
宮崎 芳三
向井 秀忠
結城 英雄
米本 弘一


これからも『英国小説研究』をよろしくお願いします101.png

by 川崎




# by eikokushosetsu | 2023-04-29 12:03 | 『英国小説研究』

廣野由美子・桒山智成『変容するシェイクスピア ─ラム姉弟から黒澤明まで』

英国小説研究同人の廣野由美子先生が、桒山智成先生とコラボした本が出ました

廣野由美子(ひろの ゆみこ)・桒山智成(くわやま ともなり)著
『変容するシェイクスピア ーラム姉弟から黒澤明まで』
筑摩選書249 筑摩書房 2023年



筑摩選書<br> 変容するシェイクスピア―ラム姉弟から黒澤明まで





出版社による紹介文とこの本の内容↓

元々は舞台の台本として書かれたシェイクスピア作品は、いかに形を変えて世界に広まったのか? 児童文学や映画等、翻案作品を詳細に分析し、多様な魅力に迫る。

この本の内容:現在、英文学の代名詞として語られるシェイクスピア。元々は舞台の台本として書かれたその作品は、後世の創作家たちによっていかにして新たな息吹を吹き込まれ、世界に知られるようになったのか?『高慢と偏見』『大いなる遺産』などの英語圏文学、ラム姉弟による児童文学『シェイクスピア物語』、ローレンス・オリヴィエ、黒澤明による映画など、時代と地域を超え、姿形を変えた作品の数々を分析し、名作の知られざる魅力に迫る。


目次↓

はじめに

序章 小説の中のシェイクスピア―『高慢と偏見』『大いなる遺産』『赤毛のアン』ほか 廣野由美子
1 小説に現れたシェイクスピア
2 シェイクスピア、二〇世紀の小説世界へ

第1章 劇場の中のシェイクスピア―『ロミオとジュリエット』 桒山智成
1  シェイクスピアの台詞と劇場
2  シェイクスピアの台詞とライブ上演の感覚
3 シェイクスピア作品の重層性

第2章 子供の世界のシェイクスピア―ラム姉弟の『シェイクスピア物語』 廣野由美子
1 ラム姉弟の人生と文学活動
2 劇から物語へ 
3 メアリの喜劇とチャールズの悲劇

第3章 映画の中のシェイクスピア―『ヘンリー五世』『蜘蛛巣城』 桒山智成
1 ローレンス・オリヴィエの『ヘンリー五世』
2 黒澤明の『蜘蛛巣城』

あとがき
引用・参考文献


まず、この本を読んだ私(川崎)の第一の反応は
この本で扱われている作品を
読んだり観たりしたくなったこと

次に、研究者として面白かったのは
同じ作品を違うジャンルに移しかえるときの工夫の具体例

そして移しかえる時に、どんな工夫が必要か、または可能か、を知ることで
そのジャンルの特色や、移しかえた時代の特色、さらに作者の個性がわかること


例えば、第2章では、メアリ・ラムとチャールズ・ラム姉弟が
シェイクスピア作品を児童小説にした『シェイクスピア物語』
Tales from Shakespeare, 1807)を、扱ってるんだけど

芝居の台本を小説にすると
語り手を設定できる
または、語り手を設定せざるをえなくなる

そうすると、例えば、台本より抽象的に、筋書きの一部をまとめることができる
または、まとめざるをえなくなる

そのまとめかたに、当時の価値観とか、作者の価値観とか、小説の慣習とかを入れられる
または、入れざるをえなくなる


さらに児童向けだから
子どもに読ませたくないものを排除したり
子どもに教えたいことを入れるように工夫できる
または、せざるをえなくなる


という感じで、小説と戯曲の両方の特徴と
18世紀後半から19世紀前半の子ども観

さらにはラム姉弟の、より個人的な価値観が
見えてくるのが面白かった



小説は、登場人物が口にする台詞を、直接話法で入れることもできる
ラム姉弟も、シェイクスピア作品に出てくる有名な台詞を
直接話法で引用してる

例えば、『ロミオとジュリエット』の
「ああロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」とか


反対に、ラム姉弟は、超有名な台詞を、省いてもいる
どの台詞なのか、なぜ省いたのかについては
119から123ページをお読みくださいね


ちなみに、「ああロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」
という台詞は、論理的には、間違っているそうです

私は小さい時にテレビで見て、そのまま受け入れて
論理的にどうかなんて、考えたこともなかったから、結構びっくりした
これについては、54から55ページをご覧ください


この本の第3章「映画の中のシェイクスピア」では

ローレンス・オリヴィエ監督・主演の『ヘンリィ五世』(1944)と
黒澤明監督による『マクベス』の翻案『蜘蛛巣城』(1957)を
解説してるんだけど


これがめちゃくちゃ面白い
読んだ人は、『ヘンリィ五世』と『蜘蛛巣城』を観たくなること必至

二人の監督が、どれほどの意匠を凝らしているかが、よくわかるから


例えば、原作の第3幕第1場で、ヘンリーが

「もう一度、突破口へ、親友諸君、もう一度。
あるいはわれらイングランド人の死体を重ねて、穴をふさげ。」

と言うところ


オリヴィエの映画では
最初の「もう一度」で、馬上のヘンリーは正面を向いて
画面手前の兵士に語りかけ

「突破口へ、親友諸君」で、画面の右に動き、画面から出ていく

そして二度目の「もう一度」で、次の画面の左から入ってきて
右へ少し動いた後、また左へ戻り
引用の終わりで、そのまま画面から出ていく


ヘンリーが右に、それから左に左右に動く二つの映像は
類似した画面の繰り返しが、「もう一度」という言葉と連動しているそうです


すごい、そんな工夫してたの?と、この例一つで驚いた私は
DVDを持ってたので、さっそく観てみた

でも、動体視力が弱いのか、速すぎて、一回じゃよくわからなかった


第3章は、この「もう一度」の場面のような、ミクロレベルの意匠の数々から

黒澤が、原作を大胆に改変することで
原作が持つ「意表を突くが、腑に落ちる」という終わり方を

かえって忠実に再現しているといった、マクロレベルのことまで
ずらーっと書いてあって、スリル満点です


映画を観てたら、原作も読みたくなり、『ヘンリー五世』
(小田島雄志訳、白水uブックス、2013年、電子版)を読みました

この版は以前読んだことがあったけど
その時より、ずっと味わい深かった

ガワー(イングランド)、フルーエリン(ウェールズ)
マックモリス(アイルランド)、ジェーミー(スコットランド)が一緒に話すところでは

それぞれの出身地の訛りを、ちゃんと訳し分けてありますね


原作では、フルーエリンがウェールズ訛りで
「Jesu」(イエス・キリスト)と言うのを
「Cheshu」と表記したりしてるけど

全体として、英語にあまり違いはない
舞台で発音を変えれば、観客には十分わかるのでしょうね


原文は、こちらを参照しました。何版なのかは、よくわからない↓

「Cheshu」がウェールズ訛りであることについては、こちらに情報あり↓


お国訛りに加え、キャサリンがフランス語混じりの英語を話したり
ヘンリーが片言のフランス語を話したり

『ヘンリー五世』は、音声的にもカラフルな作品だったのですね

地政学的なものの反映と思うと、複雑な気持ちになりますが
それはともかく、舞台で、英語で観て(聴いて)みたくなりました


少し脱線しましたが、これも『変容するシェイクスピア』の影響
ということで

皆様もぜひ読んでみてくださいね101.png

by 川崎




# by eikokushosetsu | 2023-03-28 22:14 | 英国小説研究同人