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キャサリン・ハードウィック監督『マイ・ベストフレンド』 (2015)とエミリー・ブロンテ『嵐が丘』(1847)

映画『マイ・ベストフレンド』には、

エミリー・ブロンテの『嵐が丘』や、

ブロンテ姉妹の故郷ハワースが出てきます。


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ハードウィック監督は、『トワイライト 初恋』も撮った人。

この映画も、『嵐が丘』を彷彿とさせますから、

監督は『嵐が丘』が好きなんでしょうね。


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ちなみに『トワイライト』シリーズで、

主役ベラ(クリステン・スチュワート)が、


「好きな小説は『嵐が丘』。

私のエドワードへの愛は、

キャサリンのヒースクリフへの愛に似ている」


と言ったところ、

原作の売り上げが4倍以上になったとか。


この売上増の話は、Janet Gezari編集の

The Annotated Wuthering Heightsに載ってます。


これは、『嵐が丘』に解説や註をつけた豪華大型本で、

『嵐が丘』への愛に満ちていて、癒されます


Emily Brontë, The Annotated Wuthering Heights.

Edited by Janet Gezari.

Belknap Press of Harvard University Press, 2014.

Cover: The Annotated Wuthering Heights in HARDCOVER




マイ・ベストフレンド』は、

この世では幸せになれない男女の話じゃなくて、

少女時代から親友のミリーとジェスの物語です。


話の展開を知りたくない人は、

この辺でストップした方がいいかもしれません。


舞台はロンドン。


小学校の時、オレゴンから

ジェス(ドリュー・バリモア)が

ロンドンに転校してきて、

ミリー(トニ・コレット)と大の仲良しに。


中学生くらいになると、一緒に『嵐が丘』を読みます。

「ヒースクリフは背筋が伸びてスタイルよし」のところ。


長じて、

ミリーは、元バンドマンの夫と、音響会社を経営。

小学生くらいの子供が二人。


ジェスは、夫と二人で、

川に係留したボートに住んでいる。

仕事は、環境保護の関係。


ある時、ミリーは乳がんに、

ジェスは不妊治療の末、妊娠。


この後、二人の体調が、交互に描かれます。


ちなみに、ミリー役のトニ・コレットは、

映画『めぐりあう時間たち』でも、

婦人科系の問題を抱えた役でした。


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ミリーは化学療法を受けますが、

ジェスは付き添い、

少しでも痛みが紛れるよう、

『嵐が丘』を読んであげます。


やっぱり、「ヒースクリフは背筋が伸びてスタイルよし」のところ。


すると担当ナースのサムが、

「女の人って、ダーシーみたいのが、いいんでしょ」

みたいなことを言ってきます。


ダーシーは、ジェイン・オースティンの

『高慢と偏見』(1813)に出てくる、

第一印象はよくないけど、実は理想の結婚相手という人。


すると、ミリーは

「ヒースクリフの方が断然いいよ!」と言います。


ミリーは、むっつりしてるけど実は紳士なダーシーより、

むっつりしていて実際恐ろしいヒースクリフの方が、

タイプなんですね。


『嵐が丘』が好きなのも、ヒースクリフが好きだから、

というのがあるんだと思います。


先日ご紹介した『高慢と偏見』と『嵐が丘』対決も、

一部は「ダーシー」対「ヒースクリフ」なのかも。


つらい化学治療の最後の日、

ミリーはサムに『嵐が丘』の本をプレゼントします。


でもミリーの癌は進みます。


夫が開いてくれた、誕生日パーティで、

みんなの前で、荒れてしまい、

店を飛び出し、タクシーへ。

ジェスも乗り込みます。


酔っぱらったミリーは、運転手に、

「ハワースに行って」と頼み、

二人は400キロ離れた、ブロンテの故郷へ。


ミリーは『嵐が丘』の荒野を見るのが、

ずっと夢でした。


夜中にハワースに着くと、

ミリーは外に出て

「私のヒースクリフ!」とはしゃぎ、

原作のヒースクリフのせりふ、


「ああ、神よ、言葉にできない!

自分の命なしには生きられない!

自分の魂なしには生きられない!」


を叫びます。


そして二人は、ブロンテをテーマにした宿に泊まります。

ミリーは「エミリーのスイート」、

ジェスは「ブランウェルの部屋」。

(ブランウェルは、エミリーのお兄さん)


ミリーがハワースに来た目的は、

実はもう一つあって、

それがこの段階のミリーには

極めて重要なんですが、

そのことに関して、翌朝、二人は喧嘩をします。


喧嘩のシーンは、荒野の岩場を、

上空から撮影したもので、

雨上がりの空気が、肌で感じられそうなほど、

リアルでした。


結局二人は、喧嘩別れして、それぞれロンドンへ。


二人が一緒の最後のシーンは、

エミリーの姉シャーロット作『ジェイン・エア』(1847)の、

ジェインとヘレンが一緒にいる最後の場面と同じ展開に。


ミリーが娘に、

私の魂(spirit)はずっと一緒にいるからね、

と話すところは、


『嵐が丘』に出てくる、

ヒースクリフのキャサリンへの執着とか、

死に際のキャサリンのヒースクリフへの復讐とは違う、


親の子に対する気持ちの表現になるんだなあと、

新鮮に思いました。


最後の最後は、ジェスの笑顔が出て、

演じるドリュー・バリモアとも重なり

(『E.T.』も見てるし、やっぱり応援したくなる)、

お幸せにね、と思いました。


by 川崎


by eikokushosetsu | 2017-11-16 23:30 | 映画と文学